言葉足らず


●昔むかし
「言葉足らず」

金光教放送センター

朗読:杉山佳寿子さん

 昔むかし、ある村に、源太げんた与作よさくというお百姓がおりました。2人は幼なじみで、お互いに「げんさん」「よっさん」と呼び合う仲でした。
 ある日のこと、源太と与作は、田んぼの水の見回り当番をしておりました。源太は風邪気味で、おまけにおかみさんと口げんかをしたせいで、イライラしておりました。与作は与作で、足首を痛めておりましたので、水路に溜まったゴミを取るのに、足をかばい、苦労しておりました。
 その様子を見た源太が、
「よっさんよ、そんな足では役に立たん、家に帰れ」
と言いますと、与作は、
「いや、大丈夫だ」
 すると源太は言葉を強めて。
「帰って休め! そんな足では仕事の足を引っ張る。足が足を引っ張るとはしゃれにもならん」
 これを聞いた与作は頭にきて、
「帰る!」
と怒鳴り、顔を真っ赤にして、プリプリと怒りながら歩いていると、いつの間にか、村外れの古い小屋の前にいました。
 のぞいてみますと、男たちが、「丁」だの、「半」だのとやっております。
 「何だ、ばくちかぁ…」と思い、帰ろうとしたところを見付かって、「賭け事なんてやったこたぁないが、まあ1回…だけ」と思い、懐の小銭を出して賭けてみますと、それが当たり、何と、小銭が何倍にもなって返ってきたのでした。

 さて一方、遅くまで見回りをした源太が家に帰ると、おかみさんが心配して、
「どうしてこんなに遅くなったのかえ」と聞きますので、
「よっさんが足を痛めていたから、家に帰して、俺が一人で見回ったでなぁ」
「それは良い事をしたよ」と夫婦で喜んでおりました。
 けれども、その晩、源太は熱を出し、寝込んでしまいました。
 信心深いおかみさんは神棚に向かい、源太と与作が早く良くなりますようにとお願いしておりました。

 さて数日後、源太は田んぼの帰り道、与作とばったり出会いました。
「よっさんよ、足は治ったのかえ」
 けれども与作は、プイと顔を背け、黙って行ってしまいました。
 さらに幾日か経った頃、与作が、ボーッと魂が抜けたような様子で歩いております。
 源太は変だと思い、おかみさんに相談しましたら、
「それはお前さんが、よっさんを怒らせたのに違いないよ。何か言ったんじゃないのかえ」
 源太は、
「そういえば…あの時、俺はよっさんに、確か、『役に立たんから帰れ』と言った。本当は、『足を痛めているのに気の毒だ。今日は痛くてつらいだろうから、帰って休め』と言うはずが…」
 するとおかみさんは、
「またお前さんの『言葉足らず』のクセが出たよ」
「『足が仕事の足を引っ張る』とも言ったような…」
「あきれたね。お前さんは言葉足らずのくせに、一言多いんだよ。今からよっさんの家に謝りに行ってきなよ」
 おかみさんに引っ立てられて与作の家に行きますと、静まりかえっております。戸をドンドン叩きましたが出て来ません。
「俺だ! 源太だ! よっさん、居たら開けてくれ」
 大声で言いますと、やっと与作が出てきました。
 源太が、与作の袖をつかんで平謝りに謝りますと、与作は、
「げんさん、俺はもう、誰にも合わす顔がない。俺を心配して、帰るように言ってくれたげんさんに腹を立てて…。あれから俺は、村外れの博打をしてる連中のとこへ通うようになってな。だけどある日、賭けに勝つだけ勝って、正義漢ぶって説教しちまって…。ぶん殴られて追い出されてなぁ…。(涙しながら)げんさん、あんなことで腹を立ててしまって、ごめんなぁ。許しておくれよ…」
 訳を聞いた源太は、
「よっさんよ、俺の言葉足らずで、つらい思いをさせてすまなかった。俺の方こそ、許してくれよ」

 それから源太と与作は、以前にも増して仲良しになりましたと。

おしまい。

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