生け花くらべ


●昔むかし
「生け花くらべ」

金光教放送センター

朗読:杉山佳寿子さん

 昔むかし、ある町外れに、吾一ごいちという大工職人がおりました。吾一は幼なじみの多助たすけと、飲み屋で良いご機嫌です。

 多助が言いました。
「おい吾一よ、お城のお殿様が『生け花上手の娘』という催しをなさるそうだ」
「何だ? それは?」
 吾一が聞きますと、
「お殿様の前で花を生けて、一番上手な娘にご褒美を下さるんだと。そうだ!! お前の娘のおみつをそれに出したらどうだ?」
「ダメダメ」
 吾一は手をヒラヒラと振りながら、また酒をぐいっと一口…。しかし多助は、
「お前の家に行った時、山から切った竹筒に」
「あれは俺が作ってやった」と吾一。
「ハアー? 竹を切っただけだろうが。それに花が挿してあった。お光だろう。それになあ吾一、殿様からご褒美を頂ければ、もっとうまい酒がたくさん飲めるぞ」
 多助も酔っ払っておりますから、いい加減なことを言います。酒飲みというものはどうしようもないもので、ついつい2人ともすっかりその気になり、盛り上がってしまいました。

 さて、その話を聞いた光は大層驚きました。光は、貧しい住まいの片隅に咲いている野の花を大切にしておりましたが、「生け花」などしたことがありません。それにお城のお殿様など、とんでもない話です。嫌だと言っても、おとっつぁんは首を縦には振りません。おまけに、町のお大尽の娘のさとも出るのだから良いだろうと言います。 
 里は、茶の湯、生け花、お琴などをたしなむ、気位の高い美しい娘だといううわさで、光は町で出会った時、あいさつをする程度で、親しく話したこともなく、ちっとも良くなんかありません。
 さて困り果てた光は、庭の片隅の野の花の所に行きました、そうして深いため息をつきました。
 すると、
「どうしたの?」
 野菊の花が尋ねました。光が事の次第を話しますと、
「良いじゃない。やってもみないで駄目だなんて、思わないでね」
 光はハッとしました、こんな小さないのちに励まされるなんて、恥ずかしく思いました。
 野菊の花はなおも言いました。
「私たちに目を留めない人たちに、私たちの美しさを伝えてね」
 すすきや彼岸花が、そうだそうだとうなずいております。
 その日から、光と草花の会話が始まりました。どうしたらこの花々を、美しく豊かに仕上げられるだろうかと、花の言葉に耳を傾けました。

 いよいよお城に上がる日が来ました。
 広間には着飾った娘たちが集まっております。光はといえば、前夜、おっかさんが嫁入りの時に持ってきたという晴れ着を出してくれたのですが、とても粗末な物で、おまけにおっかさんは小柄ですので、光は袖口から手がにゅーっと出てしまいます。それでも光はありがたいと思っておりました。居並ぶ娘たちは、光をさげすむような目で見ております。
 そこへ、様々な花が運ばれてきました。自分の好きな花を選んで生けるのです。
 殿様と奥方様の前で次々と娘たちが花を生けるのを、光は一生懸命見ております。やがて、お大尽の娘、里の番が来ました。枝振りの良い木に花を添え、それは見事な出来栄えでした。
 そして、最後に光の番が来ました。さて花を見ますと、残り物ばかりです。光はその中に野の花を見付けました。うれしさが込み上げてきました。「私たちが一番美しく見えるようにして…」と言った野菊の言葉がよみがりました…。

 やがて発表の時となりました、ご褒美を頂いたのはお里でした。光はそれは当然のことだと思いました。と、そこへ女が一人やってきて、光に、「奥方様がお呼びだ」と言うのです。
 何事かと戸惑って奥方様の前に進みますと、

「そなたは、あのような、人が振り返らぬ野の花を、大層美しく生けましたね」とお言葉を頂き、その上に美しい布地を下さいました。
 さて、外に出ますと、お里が待っていました。
「光さん、同じ町ですから一緒に帰りましょうね」

おしまい

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