大地にひれ伏して


●先生のおはなし
 「大地にひれ伏して」

金光教黒木くろぎ教会
鳥取和道とっとりかずみち 先生


(ナレ)おはようございます。パーソナリティの大林おおばやしまことです。
 さて、人間は皆、大地から生じる様々な物を食べ、大地の上で一生を送ります。とかく土は汚いものと見られがちですが、私たちにとって、大地のご恩は計り知れません。金光教の教祖も、あらゆる命の元として、大地に神様の働きを見いだし、こよなく尊びました。
 今日ご紹介するお話は、金光教を伝えるために一人で韓国に渡った鳥取とっとり和道かずみちさんの体験談、タイトルは「大地にひれ伏して」です。
 異なる文化の中での孤独な布教活動を支えたものは、やはり人間はみんな同じ大地につながっているという思いでした。

(本文)私は、金光教が韓国に布教拠点を作るために、1995年からの7年間、韓国の首都・ソウルに派遣されました。まずは韓国の文化や風習を理解することから始まり、併せて金光教の教えや信心を韓国語で伝えていかなければなりませんでした。しかし、いざ伝えるといってもそう簡単にはいきません。では何から取り組んでいけばいいのか、模索する日々でした。
 そんな中、この天地を美しくありがたく使わせていただく教えが、私の心に留まりました。金光教では天地全体が神様のお体、ご神体とされ、天地を汚すことなく奇麗にすることに努め、自分の心もすがすがしく、心を磨かせてもらうことが大事なのです。そこで、韓国の自宅近所に落ちているゴミを拾い、ほうきで掃き清めることにしました。また、天候に左右されず実践することが大事だと思い定め、雨の日も風の日も行いました。そうして取り組むと、徐々に近所の方々との交流が始まり、会話も生まれてきました。
 「なぜ毎日掃除をしているの?」と韓国の方から聞かれます。その時決まって「チョヌン、コンコウキョウ、インミダ(私は金光教です)」と伝え、生かされている感謝を込めて天地自然を美しくさせてもらっていることをお話しました。
 韓国で「金光教」という名前を伝えさせていただくだけで、とてもありがたい気持ちが込み上げるのでした。そのことがうれしく、早朝の掃除だけでなく、夜間も始めることにしました。掃除の場所は自宅から20分ほど歩いた小高い丘にある公園でした。最初その公園を見てとても驚きました。方々に大量のゴミが散乱し、トイレも汚く荒れ果てていました。「よし! この公園で新たな実践に取り組ませていただこう」と決めたのでした。
 翌日から、公園の掃除を始める前に、「未来ある子どもたちがこの公園を明るく元気に気持ち良く使わせていただき、世の為、人の為にお役に立つ子どもたちになりますように」と願いを込めて掃除を始めました。掃除が終わると、市内を一望できる場所を選んで大地にひれ伏し、生かされている感謝と、再び子どもたちのことを祈りました。冬の冷たい日でも、大地にひれ伏していると次第におでこが温かくなります。じっと目を閉じ、「この天地の中で人は皆生かされ、そしてこの大地は世界中につながっている。私は韓国で一人ではない。生まれ育った実家にも、金光教の御本部にもつながっているんだ」と次第に感動するようになったのです。
 ところがある日、「父が脳血栓で倒れた」と九州の母から電話が入りました。母からは「すぐに日本に帰ってきてほしい」と言われました。電話の後、帰るべきか残るべきか、大変悩みました。今帰ってしまうといつ韓国に戻れるか分かりません。韓国の方々との交流も途絶えてしまいかねません。どうしてよいか分からず、しかし何か行動せざるを得ない思いで始めたのが「ドブ掃除」でした。ドブの詰まりを父の血管が詰まっている所と思って、町内中のドブを必死に掃除して回ったのです。せめてもの思いでした。
 そんなある日のこと。それでも悩み続けていた私は、掃除を終え、いつものように大地にひれ伏していると、「神様、父が助かるのであれば、この曇り空の中に星の光を見せてください」という思いがふと心に湧きました。一心に祈り、ふと頭を上げて夜空を見ると、私の頭上に一つの輝く星が見えます。私は身震いしました。「お父さんのことは心配せず、韓国の地でやるべきことをやりなさい」と神様が言ってくださっているように思え、感極まり、大地に涙しました。母に電話し、「どうしようか大変悩みましたが、すいません、やはり今帰ることはできません。韓国の地から必死にお祈りしています」と伝えました。
 その後、父は医師も驚くほど元気になり、車の運転もできるほど回復したのです。
 こうして私は、7年間の韓国派遣を終えて帰国することとなりました。現在は生まれ育った九州の教会で奉仕しています。韓国で大地にひれ伏し、祈り続け、汗と涙の染み込んだ公園の土の感触を思い起こしながら、韓国の皆さんのこともお祈りしています。
 そして今も、教会の周り、町内の掃除に努めて、草取りや木々の手入れをしたりお花を植えたりと、皆が気持ち良く癒やされるようにと願い、行っています。
 全世界の皆が、この天地の中で生かされています。その天地自然に感謝を込めて、大地を美しくさせていただき、人類皆で助け合い、祈り合う世界が生まれたらと願っています。


(ナレ)大地から生まれ、大地の上で生かされ、また大地に帰って行く人間同士。そんな思いで世界中の人々が心を通わせていけるといいですね。
 鳥取さんの努力が礎となって、現在、韓国でも金光教が着実に根を下ろし始めています。

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