闇と光


●信心ライブ
「闇と光」

金光教放送センター


(ナレ)おはようございます。
 今日は、関西大学で宗教学を教えている高鍋北たかなべきた教会の宮本要太郎みやもとようたろうさんが、令和元年11月、金光教大阪センターでお話しされたものをお聞きいただきます。
 今から約140年前、エジソンが白熱電球の実用化に成功しました。それ以来、人類は人工的な光を獲得し、大いなる恩恵を蒙って生活してきました。しかし、宮本さんは、「人工的な光がまぶしすぎて、闇が見えにくくなっている現代においては、その恩恵と同時に生み出された闇の部分にもっと目を向ける必要があるのではないか」と訴え掛けます。

(音源)白熱電球の後に蛍光灯が発明され、さらに今はLEDというように、次々発明されています。そうすると、この地球上から自然の闇というものがどんどん失われていく。人工衛星から地球を見ると、本当に夜の側でも明るいんですね。特に、都会は煌々と明るい。
 このように人類は、どんどんどんどん自然の闇を駆逐している。人工の光によって駆逐していくという営みを続けてきた。まさにこれは近代文明の一つの特徴でもあるわけです。
 ただ、ここで考え直したいのは、「人工的な光」が生み出されるということは、「人工的な闇」も同時に生み出されているんじゃないかということなんです。つまり、「生と死」や「善と悪」というものが、古来この「光と闇」によって例えられてきた。ということは、この「人工的な光」と「人工的な闇」というのは、実はそういう「善と悪」や「生と死」という二元論の対立をより強化するメタファーとしてあるのではないかと考えるんです。
 「人工的な光」というのは、実は、生物としての人間にとっては、刺激が強すぎるそうなんです。だから、「人工的な光」が強ければ強いほど、それは強い刺激となって私たちの体や精神に様々な悪影響を及ぼすということがよく分かっているんです。かつて、この「人工的な光」というものが生み出される前は、お日様が昇ってくる前に起きて、お日様が沈んだ後に眠りに就くという生物学的なリズムが人間の体内時計というものを作っていたんですけども、「人工的な光」が生まれた時から、それを浴び続けることによって、どんどん崩れていくということが指摘されています。ですから、今は現代病として、不眠症や睡眠障害がすごく増えているんですが、これもやはり「人工的な光」を浴び続けたということに影響されています。それから、こういう明るい照明に普段から慣れていることで、対照的に薄暗い部分が見えにくくなる。これは、「この世の中の様々な闇の部分、負の部分、暗い部分、そういった部分を私たちがあえて見ようとしない。そちらに目を向けてもよく見えない」ということと無関係じゃないと思うんですね。
 自然の光には、「かわたれどき(彼は誰時)」とか「たそがれどき(誰そ彼時)」という言葉があるんですね。「かわたれどき」というのは、日が昇ってくる前の薄暗い時間帯です。遠くにいる人が、「彼は誰?」「あの人は誰だろうか?」というような時間帯が「かわたれどき」です。逆に、夕方日が沈んで、だんだんと暗くなって、「あれは誰だろうか?」というのが「たそがれどき」です。そういうように、ちょうど光と闇が入れ替わる中間的な時間帯というのがあった。それは、光と闇がいわば共存している、融合している時間帯ですよね。そういう時間帯というのは、何か人間は一日の疲れを落として、ほっとするような時間帯。あるいは、目が覚めて徐々に意識が覚醒していくような時間帯。そういう切り替えの時間帯なんですね。
 ところが、現代の人工的な光というのは、もうスイッチオンかオフで、パッとついてパッと消えますよね。これは自然にはないんですね、基本的には。自然にはいきなり明るくなったり暗くなったりすることはないんです。こういうふうに何でもオンとオフ、まさにコンピューターですね。ゼロかイチ。まさに二元論の極みですけども、ですから先程私が、「人工的な光が蔓延することによって、善と悪や生と死というものの対立、二元論がより強調されたんじゃないか」と言ったのはその辺にもあるんです。単純に光というものをオンかオフかで私たちは体験している。


(ナレ)まばゆいばかりの光。それは、科学技術の進歩と共に、経済の論理を優先させる社会、便利なものへと流されていく社会の姿です。その裏では、役に立たないと切り捨てられる人間、ものとして扱われる人間、社会の片隅でじっと息を潜める人間がいます。孤独に死を迎える人間、生命操作によって作り出される人間。その闇をじっと見つめ、人間のいのちとは何か、人間が生きるとはどういうことかを考える。
 私は朝早く散歩することがあります。光が差し込み、だんだんと明るくなっていく一日の始まり。そんな時、この宮本さんの話を思い出し、闇に目を向けて、人間というものを思うのです。

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