祈り


●教師インタビュー
「祈り」

金光教放送センター


(ナレ)橋口美紀はしぐちみきさんは、小学生の頃、いじめにあっていました。そのつらい気持ちを、大好きなおばあちゃんに打ち明けていたそうです。その頃、橋口さんは京都に、おばあちゃんは大阪に住んでいました。橋口さんはお休みの日によくおばあちゃんを訪ねていました。

(橋口)3年生の頃にやんちゃな女の子がいて、その子となかなかうまく折り合いがつかなくて、ちょっと、いじめみたいなことを受けてきまして。その時に、祖母の膝の上で泣いて泣いて、「今は何とか行ってるけど、本当はもう行きたくないんだー」って、ずーっと泣きながら言ってたんですね。そしたら祖母が、「おばあちゃんがずっと、神様にお願いしとくから」って言ってくれて。んー、ただ当時の私は、もう「何さ、それ」みたいな感じで。

(ナレ)橋口さんのおばあちゃんは金光教を信仰していたので、「神様にお願いしておく」と言ってくれたのです。
 橋口さんはその後、家の事情で転校することになりました。引っ越し先は、おばあちゃんが奉仕している金光教天王寺てんのうじ教会でした。橋口さんは新しい小学校で5年生を迎えます。

(橋口)「わあ助かったー」ってすごい思った記憶がありますね。で、小学5年生の時に、同じ時期に転校してきたSちゃんという子がいたんですね。初めてそこで友達ができて。で、Sちゃんも何か境遇が一緒で、「自分も前のところでいじめられてたんよ」みたいな話なって。「わあ左利きやね。左利きでいじめられんかった?」「そやねん」みたいなんで、仲良くなっていきましたね。そういう関係で、同じクラスにもなれて、もう小学校の最後の2年間は本当、Sちゃんとだけの学校生活やったのを覚えてます。

(ナレ)Sちゃんと仲良くなり、楽しい学校生活を送るようになった橋口さん。しかし小学校を卒業し、中学生になると、Sちゃんの様子が変わっていきました。

(橋口)中学2年生になる前くらいから、「あれ、姿が見えない」ってなって、来たと思ったら保健室行くようになってしまって。私も追っかけて、「Sちゃんどうしたの」みたいな感じで。「いや、もう教室が嫌やねん」みたいな話なって。
 中学2年生の時に、本当に何かSちゃんが痩せていったんですね、だんだん。リコーダーの穴が塞げないぐらい、指も痩せちゃって、ガリガリなっちゃって。で、その時に、「うわ、私じゃどうしようもできない」ってなって、祖母のところに泣きついて、みたいな感じですね。その時に初めて、お広前に連れてってくれて、「ここには神様がいて、美紀ちゃんを守ってくれる存在だから、おばあちゃんと一緒に、手を合わせて、Sちゃんのことを願ってあげようね」って言われたんですけど、でもやっぱり見えないから信じれない。手を合わせましょうとか言われても、やっぱ拒絶したい気持ちのほうが強くて。「何か先生に一緒に相談しに行くとかさ、何かないの」ってすごい思ったんですけど、その時の祖母の真剣な顔を見て、「あ、きっと本当に助かるかもしれない」っていう確証がちょっと芽生えて、で、手を合わせるようになりましたね。こうやって、「Sちゃんが元気になりますように」とか、「そういうふうにお願いしたらいいよ」とか言ってくれたんで、まあそのまま、毎日、お願いするようになりましたね。

(ナレ)おばあちゃんの真剣な様子を見て、橋口さんはSちゃんのことを祈るようになりました。その後、Sちゃんはまた転校してしまいました。

(橋口)絶望でしたね。自分のイメージしてた助かりとは全く違って、「え、転校しちゃうの」って。私まだSちゃんといたいのに、っていう思いがぶわって出てきて、「やっぱり神様いないな」ってすごい思いましたね。何か期待とか希望が全部崩された感じでしたね、その時は。
 でも、Sちゃんの顔が浮かぶと、神様にお願いすることが、何か自然とパンとなるようになってて。その時は、まあ願いながらも、「どうせSちゃんも行っちゃったし、神様もおらんし」とか思ってたんですけど、心はすごい反発してんのに、体は祈る方向に行ってるというか、「Sちゃんが元気でありますように」と。その一言をずっと言ってましたね。
 あの時短大生で、放課後よく私一人で残って、本読んだりとか、課題やったりとかしてたんですけど、その時に、またふっとSちゃん浮かんで。「Sちゃんも大学生になってるのかなあ」とか、「それとも働いてるのかなあ」とか、どうしてるやろうと思って、「どうぞSちゃんが幸せでありますように」って願ってた時に、「あれ」って思って。「もしかしたら、うちの祖母もこういうふうに、私が小学生の時に、わんわん泣いてる私の姿を、ずっと思いながらこうやって手を合わせてくれてたのかなあ」って、何となくふっと思ったんですよね。で、その時に、「ああそういえば私途中で、転校できたなぁ。もし神様という存在がいるのであれば、祖母が私に対してずっと手を合わせてくれて、私がどうぞ元気で楽しく学校生活送れるようにって願ってくれてたから、そういう転校っていう道を神様がもしかしたらつけてくれたのかなぁ」、って思ったんですよね。
 Sちゃんのことも叶ってないと思ってたけど、実は違う形で叶ってて、今はもしかしたらSちゃんが笑ってるかもしれないって、そんなふうにいろいろ考えるようになって。で、その時に何か急に、ああ、神様ってもしかしたらいるのかもしれないって思うようになりましたね。

(ナレ)信じてはいないけれど祈り続ける。その矛盾した祈りの先にあったのは、橋口さんもまたおばあちゃんの祈りに包まれていたという温かな気づきでした。
 Sちゃんが今どうしているのか、実際のところ、橋口さんには分かりません。ただ、橋口さんにとっては、大切な人を想い続ける心が、神様と出会うきっかけとなりました。
 その後、金光教の教師となった橋口さん。Sちゃんのことはもちろん、人々の助かり、みんなの幸せに心を込めます。

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