祈る気にさえなれなくても


●信者さんのおはなし
「祈る気にさえなれなくても」

金光教放送センター


(ナレ)岩崎一英いわざきかずひでさんは、昭和21年生まれの76歳。幼い頃からお母さんと一緒に、大阪府にある金光教天下茶屋てんがちゃや教会へお参りしていました。
 大学卒業後は機械設計の会社に就職し、結婚もしましたが、「自分の力を存分に発揮したいから」と、会社を辞め、新たに仕事を始めたのでした。それは、自動車の電装品を扱う商いです。雨の中、大きなトラックの下に潜り込んで修理するなど、必死に働く日々でした。
 自ら興した会社を切り盛りしながら、教会の先生のお手伝いもして、熱心に信心を続けてきました。

(岩崎)まあ、だから30歳から40歳ぐらいまでは、もうそういう現場で、真っ黒けになって働いてました。
 少々何があっても、まあまあ、教会に参拝したら神さんが助けてくれると。ま、日頃からそういう神さんとの付き合いですね。

(ナレ)岩崎さんの会社は徐々に発展していきます。産業機械メーカーと連携し、日本全国をカバーする体制が整い、やがて海外への足掛かりもできました。
 ところが、6年ほど前から、海外の会社に部品の製造を依頼し、調達する準備を進めていたところ、そのことが、経営の問題となって降りかかってきます。

(岩崎)今、私が千本作ると言っても、千本だったら作ってくれないんですよね。一万本だったら作る。注文を入れないと開発してもらえないんで、「じゃあ、これを一万本注文します」「じゃあ、これも注文」。そうやってどんどんどんどん計画して作っていって。それが3年ぐらいかかって、まとめて、どーっと入って来たんですよ。そしたら、お金無いですよね。
 あと数ヶ月か、いうくらいまで追い詰められてですね。弁護士さんのところに、8月ぐらいに行きまして。12月の末ぐらいに、もう閉めよか、いうとこまで資金的に追い詰められて…。

(ナレ)3年前の令和元年、会社の事業そのものは順調だったのに、資金繰りが厳しくなり、年末をもって会社を清算しなければならない事態に追い詰められたのです。
 実はこの時、73歳の岩崎さんは、もう一つ、大きな問題を抱えていました。それは、自身の健康問題。この年の初めの健康診断で、悪性リンパ腫が見つかっていたのです。
 岩崎さんに見つかったのは、ねんの単位でゆっくり症状が進んでいく、濾胞性ろほうせいリンパ腫でした。悪性度は低いとされていますが、急に性質が変わることがあり、そうなると急速に病状が進行するといいます。
 岩崎さんが、通院しながら放射線治療を受けたのが、その年の8月のこと。会社の後始末を弁護士に相談したのも同じ月のことでした。この厳しい状況は、岩崎さんを追い込んでいきます。

(岩崎)それだけのことがこう、がばーっと来た、いうのが…。体は悪くなる。会社は危ない。信心しててこんなことになるんやったら、拝んでも拝まんでも一緒ですよね、と思いました。こういうこと言うとあれやけど、ご祈念したからというて、お金が天から落ちてくるわけじゃないしね。はっきり言うて、お金の問題やから。これは、本当にどうしようか思いましたよ。

(ナレ)追い詰められてしまった岩崎さんは、食事も喉を通らず、睡眠薬を飲んでも眠れません。これまで事あるごとにお願いし、その都度、良いように道をつけてくださっていた神様に祈ることもできなくなり、教会の先生に、神様への不満をぶつけることさえあったといいます。けれども、神様は、そんな岩崎さんを放ってはおきませんでした。

(岩崎)人の力ではどうにもならんことがね、一枚ずつ、こうやってはがすように解決して行ったんです。会社のほうは、ある銀行がちょっと融資してくれて。はっきり言うて、億というお金が調達できたんです。

(ナレ)突然、これまで取引のなかった銀行から、多額の融資の話が持ち上がり、資金繰りのめどがついたのです。年末で会社を畳まざるを得ないと考えていましたが、「これなら1月までいける」「2月まで大丈夫」というように、経営は安定していきました。
 また、時を同じくして受けた、放射線治療の効果を調べる検査も、「経過観察でいい」といううれしい結果を頂くことができたのでした。 
 岩崎さんは、当時を振り返ってこう話します。 

(岩崎)私はご祈念も何もせんかった。できなかったんで。家内のご祈念、それから親しい信者さん方がまあ、体のことですよね。ご祈念してくださったりとか…。で、先生もご祈念してくださって、それで家内もご祈念。やっぱりそれで私も…救われたんですね。
 そこがやっぱり、神さんの、不思議なもんが出てきてるんですよね。これは一般の人に言うても、「銀行が来てお前助けてくれただけや」と言うて、話が済んでしまいますけど、私はそうじゃなくて、やっぱり、そこには、この岩崎というのを生かそうという大きな力がどっかで働いたんだと思いますよ。信仰というのは信じることしかないんですよね。生かそうとする、もっと超越した力が、やっぱり…。それを宇宙と言うのか、何と言うか、どう表現するのか、私は分からんですけど。やはりそういう、人を超越したものの働きが、私はまあ、神さんだと。

(ナレ)人生最大の危機を乗り越え、改めて神様と出会い直した岩崎さん。今、生かされていることに感謝し、金光教の信心の良さを周りの人に伝えたいと強く願っています。そして、守り育てて来た会社が、これからも世の中のために役立ち続けるようにと、先を見据えた体制作りに取り組んでいるところです。

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