●私からのメッセージ
「認知症の義母がくれたもの」
金光教不知火教会
池本ひろ江 先生
おはようございます。金光教不知火教会で奉仕させて頂いている池本ひろ江です。夫と、3人の子どもたちと、認知症の夫の母と、猫のたすくと、すったもんだしながらも、楽しくありがたい日々を送らせてもらっていますが、母との暮らしが楽しいと思えなかった私が、楽しめるようになったきっかけや、母が結んでくれたご縁など、今に至るまでのお話をさせてもらいたいと思います。
「もしかしたら、母は認知症やろうか」と思い始めたのが、2年前の夏頃のことでした。きちょうめんで、しっかり者の母が、いつも欠かさなかった家事をしなくなったり、なまけているように見えることが多くなってきたんです。そんな母の言動がきっかけで、夫とけんかになったり、子どもたちも、母との関わりをめんどくさがるようになっていました。母は、どんどん物忘れはひどくなるし、お風呂は嫌がるし、どうしたらいいのか分からず、頭の中は、先の不安、心配がよぎって、「介護」という言葉が、心に重くのしかかっていました。
「母が一番つらいはず」と頭では理解しても、20年間の同居で積み重なった嫌な出来事が思い出されて、心から支えたいという気持ちになれない自分も嫌でした。私の心の中に湧いてくる不安やどす黒い気持ち、愚痴などを、金光教の教師でもある実家の母に聞いてもらっていました。実家の母はいつも最後までじっくり聞いてくれました。「それは、きつかね。私には、なんでも話して良かけん、人に求めるのはやめとかんね。人じゃなく、神様に頼らんね。神様は、あんたの前になり、後ろになって、導き、助けてくださるよ」と話してくれました。その言葉にすがって、「とりあえず、やってみよう」という気持ちに少しずつなっていきました。
病院に行くと、夫の母は「アルツハイマー型認知症」と診断されました。不安がいよいよ現実のものになりました。その日の夜、以前から相談に乗ってもらっていた介護士をしている先輩に、電話で伝えたんです。すると、偶然にも用事で私の教会の近くにいて、すぐに駆けつけてくれたんです。認知症が進行する上で、これから起きるであろうことや、行政の支援のことなど、丁寧に教えてくれました。夜だったので、家族みんなで話を聞くことができて、私は、この状況を、「神様が用意してくださった!」と感じました。
子どもたちも「おばあちゃんは、病気なんやね。みんなで、優しくサポートしていこう」「神タイミングやね。すごいね」と言ってくれて、家族の心を一つにしてもらいました。ある時は、介護のことで分からないことがあって、お世話になっている介護士さんに連絡したいなあと思っていると、近所のスーパーでばったり会い、質問することができたんです。一緒にいた娘も「すごいタイミングやね。神様が応援してくれよるね!」と、ありがたい思いで帰宅すると、母がお漏らししたんです。私の口から出てきたのは「お母さんごめんね! 『トイレどう?』って聞けば良かったね」と母をいたわる言葉でした。自分でもびっくりしました。このような神様のお働きに気づくと、母を支えたいというほうに、自然と心が動いたんです。こういう体験を重ねていくうちに、母との暮らしを楽しめるようになっていきました。母も、認知症になってからのほうがよく笑うようになり、以前より明るくなるなんて、思いもしなかったことでした。
そして、母が結んでくれたご縁もありました。月に一度、うちの教会にお参りされている洋子さんは、お参りされてもすぐ帰られていたので、ゆっくり話をしたことがなかったんですけど、母の認知症のことをお聞きになられて、「実は、私も、同居している夫の両親が認知症なんです」と、悩みをお話してくださるようになりました。共通の話題をきっかけにいろんな話をするようになり、教会で過ごす時間が長くなっていきました。心にたまったものを吐き出してくださり、お互い励ましあったりして、洋子さんの笑顔が増えていきました。
私もありがたいなあと思うと同時に、実家の母が私にしてくれたことを思い出して、「私も、母に吐き出させてもらって今があるんだから、とことん、洋子さんにも吐き出してもらおう。この、吐き出した先に何かあるはず」と、祈りながら愚痴を聞かせてもらうようにしました。
そんな日々を過ごす中で、洋子さんのご両親の認知症が進まれたので、施設を探しておられました。「どうか、良い施設とご縁がありますように」とお願いしておられましたら、ある時、新しい施設の広告が入ってきたので、見学に行かれると、施設のそばに金光教の教会があったんです。洋子さんは、「びっくりしました! 神様に守られていると感じました。広告を見つけたことも、オープンしたばかりですんなり入れたことも、神様が準備してくれたタイミングですね!」と言われたんです。吐き出したあとには、神様のおかげを感じる心や感謝の心が入るスペースができていました。
母が認知症になったら、もれなく付いて来るものは、つらいこと、嫌なことだと思っていたけど、そんなことばかりじゃなかったんです。私自身が、吐き出すこと、聞いてもらうことの大切さを実感したおかげで、悩みを抱える方への寄り添い方が変わってきました。そして、神様は、日々の暮らしの中に、前になり、後ろになって働きかけてくださっていること。「神タイミング」に気づけると、心が無理なく動くこと。楽しくなってくることを体験しています。みなさんも、つらいこときついこと、あると思いますが、神様は、絶えず、日々の暮らしの中にお働きくださっています。その「神タイミング」に気づけたら、楽しくなってきます。気づけるためには、心にたまったものを吐き出すことが大事なので、吐き出せる場所や、吐き出せる人に出会ってほしいなと願っています。私も安心して吐き出してもらえる場所を作っていきたいと思っています。