●先生のおはなし
「一生死なない親に巡り合う」

兵庫県・香櫨園教会
武部和加子 先生
(案内役)おはようございます。案内役の大林誠です。
今日は、児童相談所から委託された子どもの養育に取り組んでいる、兵庫県西宮市、金光教香櫨園教会の、武部和加子さんによるお話です。題して、「一生死なない親に巡り合う」。
わが家は里親家庭として、親と暮らせない子どもたちを家庭に迎え入れ、養育しています。私は過去に、何件か重い悩みを抱えた方の話を電話で聞かせてもらっていました。苦しむ方の多くは、幼少期から親子関係に問題があり、できることなら小さい頃になんとかできたら、という思いが根底にありました。その思いから、親と暮らせない子どもと、小さい頃から関われる里親になろうと思いました。
初めてわが家に委託されたのは、実親から虐待を受け、人生のほとんどを施設で過ごした4歳の男の子でした。
彼との生活で、人が幸せに生きるために必要なものは何かという事を学びました。それは、「命を丸ごと受け入れ、大切にしてくれる存在」です。
彼には、つらい生い立ちや過酷な環境による愛着障害の症状がみられました。愛着障害とは、親との絆が持てなかった、または不安定な絆であった場合に起きる生きづらさです。
誰とも絆を持ったことがない彼との生活は、過酷なものでした。
私たちとも絆がないので、こちらの言うことは一切聞きません。叫びたければ何度注意されても叫び続け、危ないことも、人に迷惑になる事も、どれだけ約束しても繰り返しました。思い通りにならないと癇癪を起こし、手が付けられないので放っておくと、放っておかれることに寂しさを覚え、また癇癪を起こしました。絆がないので、平気で嘘もつきました。
心が通い合わない日々が続く中でも、「彼に罪はない。許さないと。受け入れないと」と、必死に頑張りましたが、いくら頑張っても思った結果が出ないどころか、裏切られる事も起きました。そして半年が過ぎた頃、私の心と体は動かなくなりました。「お母さん」と呼ばれるだけで、体が拒否反応を示すようになりました。関わる事が苦しくて、少し距離を置くと、余計に放っておけないようなことをしてきます。彼は彼で自分を見てもらおうと必死。裏腹に、私の心はどんどん離れていきました。
不遇な子どもを助けたい一心で里親になりましたが、「目の前にいるこの子を助けたい」という気持ちはもろくも崩れ、理想とされる対応ができず、「私は里親なんかできる器じゃなかったんだ」と、とても苦しみました。実子の子育てで経験しなかった事ばかり起き、夫婦でその日あった彼の問題行動を報告し、なぜそんな事をしてしまうのか、その行動の根底にある原因を探り、明日はどう関わり、対応するのがよいのか、毎日毎日、何時間も話し合いました。
苦しい時は教会に参拝し、先生に悩みを聞いていただき、神前に身を置くだけで、心が落ち着きました。参拝すると、神様が守ってくださると思え、安心ができました。そうやって神様におすがりし、安心と心強さを頂くと、いっぱいいっぱいになった心に余裕が生まれました。夫婦一丸となり、全身全霊で彼と向き合い、3年経った今、少しずつですが、私たちとの絆ができ、委託当初にあった問題行動は無くなりました。
例えば、学校で先生に叱られたことも、嘘をつかずに話せるようになりました。以前なら自己防衛のために嘘をついたり、ごまかしたり、逃げようとしていましたが、最近ではごめんなさいと謝って、いけないと思うことをきちんと報告ができるようになりました。間違ったことをしても、殴られない嫌われない、叱られても守ってもらっているという絆と安心感が少しはできてきたのかなと思います。
金光教の御教えに「神は人間の親である。信心する者は、一生死なない親に巡り会い、おかげを受けていくのである」というものがあります。
たった一つ、親との絆が無いことで、生きづらさを抱えることになります。彼には私たち里親がおりますが、実親との絆が持てず、生きづらさを抱える方に、教会の門をたたいてほしいと思っています。そして、教会の先生を通して、いつでもあなたの命を丸ごと受け入れ、愛してくださる神様に出会ってください。孤独や生きづらさを抱える方が、どうぞ安心して生きていけますように。
(案内役)いかがでしたか。子どもが育っていくうえに、また、大人が健やかに生きていくうえにも、自分は愛されているという実感がいかに大切かを教えられるお話でした。
里子を育てることに挫折しそうになった時、武部さんを救ったものは何だったのか。それは、一緒に悩んでくれる夫がいてくれたこと。また親のように親身に話を聞いてくださる教会の先生がおられたこと。さらに人間を無条件に受け止め、わが子として限りない愛情を注いでくださる神様の存在だったんですね。こうして、二重にも、三重にも愛に守られていることを感じながら、武部さんは再び元気を取り戻していかれました。
絆に救われたのは、里親である武部さんご自身だったんでしょうね。