心強い味方


●こころの散歩道
「心強い味方」

金光教放送センター


 私が特別養護老人ホームで働いていた時のことだ。
 入社した時、介護現場は常に忙しそうで、早く一人前にならないと他の職員に迷惑を掛けてしまう、という焦りがあった。そのせいか、仕事の早さばかりを求めてしまい、利用者さんの気持ちを考える余裕がなかった。しかし、そんな時に事故が起こった。
 私がおやつ介助をしている方が、ゼリーをのどに詰まらせてしまったのだ。唇がみるみる紫色になり、大変なことになってしまった。幸いにも、ゼリーを吐き出してくれ、大事には至らなかったが、私の手足は震え、ヘタヘタと座り込んでしまう程だった。もしかすると、自分のせいで、この方を死なせてしまったかもしれないと、とても怖くなった。
 その日から、仕事の早さよりも、利用者さんにとって良い介護を意識し始めた。あの怖さを忘れないように、ロッカールームで着替える時に、「どうぞ、利用者さんにとって良い介護ができますように」と心の中で唱え、手を合わせてから現場に出るようにした。
 そんなある日、ある利用者さんから、呼び出された。そして、「あなたは何か信仰をされている?」と尋ねられた。私は驚きながらも、「実は金光教を信仰しています」。そう答えた。その方は、「やっぱり。あなたは何か違うと思っていた。この前の夜、私が不安で眠れなかった時、あなたは仕事の時間外なのに、私が落ち着くまで一緒にいてくれた。どれだけ心強かったか。信仰があるってことを聞いて納得したわ」。そう話してくれた。さらに、違う日には違う方から、「あなたの手はあったかいね」。そう言われた。体温が、という意味ではなく、「優しいね」ということのようだ。すごくうれしかった。いったい私の何が変わったのか。あの事故から、私の介護の技術が上がったわけではない。毎日ロッカーで手を合わせるようになっただけだ。何かが私を手伝ってくれているような感じがした。

 毎日、息子をお風呂に入れるのは、私の役目である。息子もありがたいことにお風呂が大好きだ。お風呂ではいろんな事がある。赤ちゃんの時は、湯船でおしっこをされたり、うんちをされたり。今となってはどれも良い思い出だ。
 そんな息子が1歳の頃、その日はお風呂で遊ぶアヒルのおもちゃを買って帰った。お風呂に入った時、おもちゃをジャーンと出すと、キラキラした目で喜んでくれた。しかし、そのおもちゃを湯船に浮かべると、急にギャーッと泣き出して、おもちゃを湯船の外に出した。「えっなんで?」。そう思いながら、少し落ち着いた頃に、もう一度湯船におもちゃを入れてみた。しかし今度も泣き出し、自分が溺れそうになりながらおもちゃを外に出す。私は思っていた反応と違ったので、心配になった。
 それから半年経った頃、もう大丈夫だろうと、再びおもちゃを浮かべてみた。すると、またあの時と同じように、ギャーッと泣いておもちゃを湯船から出した。いよいよ心配になった。その時、「あっ、そうだ。神様にお願いしてみよう」と思った。というのも、かつて親から、「心配な時や困った時は、神様にお願いしたらいい」と教えてもらったことがあったからだ。そこで、神様に、「息子が湯船におもちゃを入れるのを嫌がります。なぜ嫌がるのか分からず心配です。どうぞ教えてください」とお願いをしてみた。その時は、何の答えも無かった。しかし、その後、息子のある言動にハッとさせられた。息子のミニカーが廊下に散らかっているのを見て、私は危ないなあと、とっさに足で脇へよけた。するとそれに対して息子が血相を変え、「もーっ」と言って怒ってきた。おもちゃを大切にしているのは知っていたが、息子はおもちゃに「命」を感じていたのだ。そして、その日の晩、もう一度お風呂でおもちゃを浮かべてみた。その時はいつもとは違い、「怖い!!」と言って泣きながら必死に外に出した。私は、その「怖い」という声で、息子が昔、お風呂で溺れた時のことを思い出した。息子がヨチヨチ歩きの頃、湯船に浮かんだボールを取ろうとして、誤って湯船に落ちてしまったことがある。幸いにも近くにいたので、助けることができたが、息子は私にしがみついて離れなかった。相当怖かったのだと思う。そのことが、おもちゃに命を感じていることと結びついた。もしかすると息子は、「僕の大切なおもちゃが溺れてしまう。かわいそう」と思い、湯船の外に出していたのではないか。そう思えてきた。そして息子にそのことを尋ねてみた。すると、「うん」とうなずく。私は、そうだったのかと息子の頭をなでながら、「このおもちゃは溺れないから大丈夫!」。そう言うと、息子は涙を拭い、うれしそうにお風呂におもちゃを浮かべて遊び出した。今では邪魔なくらい湯船いっぱいに浮かんでいる。
 息子の優しい心に喜びを感じ、そして、問題を解決に導いてくれた神様に、「ありがとうございます」と手を合わせた。私は、これからも、この心強い味方を頼っていこうと思う。

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