命のほうが大事やから


●教師インタビュー
「命のほうが大事やから」

金光教放送センター


(ナレ)おはようございます。前回は、LGBT、性的少数者のゲイであることを公表された、井上真之いのうえまさゆきさんにお話を聞きました。今回は、真之さんの父、福岡県の金光教黒崎くろさき教会で奉仕する、井上憲親いのうえのりちかさんにお話を伺いました。
 憲親さんは、真之さんが中学生の頃から、学校の成績や進路のことで悩みを抱えているのではないかと感じていました。しかしその頃、憲親さんは、両親の介護に加えて、妻の両親の介護もあり、妻との別居生活を余儀なくされていました。さらに仕事の忙しさも手伝って、多感な時期の真之さんに対して、悩みを聞き出すことができませんでした。そして真之さんが高校一年生の時、自殺を考えていることを知りました。妻が、たまたま真之さんの布団の下から包丁を見つけたのです。

(井上)やっぱり、その時の衝撃が大きかったですね。当時はその、LGBTの問題でそこまで悩んでるなんて知りませんから。「何をそんなに悩んでるんかな」と思ってました。もうずっと布団の中で、布団かぶって休んでおるような状態なんですよ。うつみたいになってね。
 成績なんかは、一年の一学期ぐらいは悪くなかったんです。成績もそれなりにまあまあ取ったんで、私はそれでいいと思ってたら、それじゃない問題。で、とうとう学校に行けないみたいなことになってしまった。それが、そういうLGBTという問題で、もう高校を辞めてもいい、というようなことを言うた。私はそうじゃなくて、学校の成績で悩んどんかなと思ってた。それで、「行かんでもええ。命のほうが大事やから。学校辞めるんなら辞めてもいいから」と言うて。ほんで当時、真之は家内の母を尊敬しとったもんですから、「とにかくここ離れろ」と言うて。で、私自身も両親の介護があるもんですから、真之にもあんまりかまってあげられない、という面もあるし。真之も「あっちの高校に行きたい」とかいうようなことを、その1年前には言うておりましたから。やっぱり息子の人生のほうが大切ですからね。そういうことで、高校を辞めたんですよね。

(ナレ)命を最優先させることと、環境を変えることで、少しでも真之さんの気持ちが楽になればと思っての決断でした。離れて暮らす生活で、憲親さんも親としての苦悩が続きました。

(井上)最初は戸惑いですよね。やっぱり、親として、自分が通ってきた道から、そういう問題を捉えようとするようなことが、どうしても心の中でありました。だけど現実には、そういう問題というのは、通ったことないわけですよね、私自身が。ですから、「どうしたらいいんだろうか」みたいなね。だからといって、この問題によって、息子の人生を終わらせるようなことがあってはならない。過去に自殺騒ぎを起こしてますからね、そんなことになったら相済まないといいますか、もう、親として、自分は失格だなあぐらいのことは思うてましたね。ですから、今度は親として、受け入れていくことを第一に考えさせていただく。今言いましたように、自分には経験のないことですしね。同性愛というようなことについても、そんなに詳しいわけでもないし、理解してるわけでもありませんからね。だからそれからは、いろいろ学んだりしながら、親として、息子のことを全力でサポートさしてもらいたいと思うようになりました。それが今の率直な気持ちですね。

(ナレ)憲親さんは全てを受け入れ、より一層、真之さんのことを神様に祈る日々が続きました。

(井上)「どうぞ道を付けてください」ということは、一生懸命お願いさしていただいたんですけども。それから何ちゅったってやっぱり、「命を大切にしてほしい」というようなことは、一生懸命お願いしました。そういう願い方ですね。

(ナレ)一方、離れて暮らす真之さんは、同性を好きになることに葛藤を抱いていましたが、信頼できる金光教の先生と出会い、悩みを打ち明け、話を聞いてもらうことで、ありのままの自分を受け入れることができました。憲親さんが願い続けて10年、真之さんが25歳の時、ゲイとして生きていくことを決断し、周囲にも打ち明けました。

(井上)カミングアウトしてから、もうすごい生き生きしてきました。やっと、まっすぐ前を向いてくれるようになった。それで私も安心した、ちゅうとこもありましたね。もう「死ぬ」なんていうようなことは、考えんようになるんやないかなと思いましたね。やっぱり目とか見てたら分かるじゃないですか。それは感じましたね、うん。

(ナレ)その後真之さんには、同性のパートナーが出来ました。憲親さん夫妻は、ひと月に10日ほど、2人と一緒に生活をしています。

(井上)育った環境が違うんですから、そら夫婦でも、パートナーが女性であっても、いろいろと問題は出てくることだと思うんです。だから、お嫁さんに来られようが、パートナーであろうが、同じような思いですよね。それが男の人だったというだけで。まあ、どこのご家庭でもそうでしょうけどね、やっぱり仲良くしてほしいし、一家が団らんとしてほしい。そのために、親としてできるだけのことはさせてもらいたい、というのが土台ですよね。同じ生きるんなら、少しでも笑顔が生まれるような家庭だったら、一番ありがたいなと思うんですけどね。
 その人その人の、育った環境なり、年齢によっても違うんでしょうけども、やっぱり、みんな大切な命ということを思い出しましたね。

(ナレ)憲親さんはLGBTのことに限らず、どんな問題をも、いったん受け入れ、命が輝くよう、立ち行くよう、神様に祈る日々を、送っています。

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