●信者さんのおはなし
「せっかく頂いた命やから」
金光教放送センター
(ナレ)自然豊かな和歌山県九度山町に住む74歳の山本やよいさんは、夫婦で金光教の教会にお参りするのを毎日の楽しみにしています。しかし、結婚するまでは、自分が信心することになるなんて、想像もしていませんでした。
(山本)宗教に対してまあちょっとアレルギーっていうんですか、元々、母がすごく苦労して、「神や仏があればこういう苦労はない」「神さんていうのはない」って、小さい時からもうしょっちゅうそういうことを口癖のように言われてたんで。
(ナレ)熱心に金光教の信心をしていた夫の母が、何度かお参りに連れて行ってはくれましたが、自分から信心する気にはなりませんでした。しかし、やがて転機が訪れます。
(山本)36歳の時にしこりができて、乳がんという診断を受けて、その時に初めて主人と2人でお参りさせてもらって。そしたら女の先生でしてね、お祈りしてくださって、こう、はらはらっと涙を流されてね。で、「今まで36年間元気で来さしてもらったお礼を申しなさい。手術は神様がします。だから心配はいりません」っていうふうなことを言っていただいて。その時に、その言葉がほんとにスーッと入ったんですね、体の中に。不思議な感じで。元気に来させていただいたお礼を申しなさいって言うて、ああ、そういうふうに言われるんやなあと思うて。ほんとに元気に、貧乏の苦労はしたけれども、健康で来させてもろてたなというような、初めて気づいたというか。ありがたかったですね。だからもう本当に不安っていうようなことは全然なく、手術をしていただいて。
(ナレ)信心に対するやよいさんの思いが、この時から大きく変わりました。さらに教会の先生のこの一言が胸に響きました。
(山本)「病気でおかげ頂いた人はいっぱいいてるけども、嫁姑が仲よく行ってるところはほんまに少ないから、その見本になりなさい」と言うていただいた。
(ナレ)この言葉によって、信心の大切さを知らない自分のことを辛抱強く祈り続けてくれていた姑の優しさが心から有り難く思えたのです。
こうしてやよいさんは、家族や教会の先生の厚い祈りの中で、乳がんの手術を受け、約一カ月の治療を終えて、無事退院することができました。ところが…。
(山本)で、また帰ってきたら、この脇の下にまたこのリンパ節が膨れてきて、こんなことあるかなっていうふうに。そしたら教会の先生が、「1回でスッと行くよりか、こういうことを経験させてもらうほうがありがたいんですよ。より神様のおかげが分かりますよ」って言われて、いつも何かあるたびに先生に祈られてお言葉を頂いて、それを頼りにおかげを頂いてたんです。
(ナレ)先生は、やよいさんが希望を失わないよう、いつも問題への粘り強い向き合い方を教えてくれます。数え上げれば、これまでに5回の入院生活を経験し、深刻な命の危機も3回乗り越えてきました。病気以外にも、大けがをしたり、子育てのこと、仕事のことなど、さまざまな問題がひっきりなしに起きてきます。しかし、それらをとおして、家族の絆はいっそう強まり、人を思いやる心も深まっていきました。そして、神様の慈しみの中に生かされている幸せに目覚めていったのです。
(山本)本当に信心がなかった頃の自分と、神様を頂いてからの自分というのは、もう、もう全然変わったんですね。それまではもうそんな、ありがたいが何か全然わからなかったですね。その、自分を中心に世の中は回ってるんと違うかなって思うぐらいワガママで、そういうふうに来たんですけども。今日も起こしてもらってありがたいな、トイレ行かしてもらってありがたいな、お食事頂けてありがたいなっていうふうな、一遍にはならなかったんだけど、先生と出会わせてもらって、一つひとつ教えていただいて、そういうふうに思わしてもらうようになったんですね。
(ナレ)やよいさんは今も病院に通い続けていますが、病気をどのように捉えているのでしょうか。
(山本)みんなそれぞれ、そこを経験しないと、前に進めないというものがあると思うんですね。だから、起こってくることに対してあんまり心を煩わさんことですね。自分が心配したり悩んだりして治るもんでもない。それやったら、当然通るべき道やと、積極的にそういうことを受け入れるっていうんですか、自分で。「なんでこんなことにではなくて、「私は今、病院でおれっていうことやな」とか、「この病気を体験しなさいということやな」というふうに、積極的にその病気とお友達になっていくというか、そんなふうになったほうがいいような気がしますね。病院生活も自分の生活の一部やから、あんまり自分で、「ああ、いついつに退院したい」とか思わんと、もう受け入れていく。「まだ帰れれへんで」って言われたら、「ハイ」って素直に聞いていく。病院で働いてくれてる先生、看護師さん、お掃除の人、その人らにね、やっぱり感謝する。お水一杯、点滴の薬一滴、それらに、「ありがとうございます」と言える自分になっていく、それがね、ものすごく大事と思って。
(ナレ)やよいさんは、日頃、自宅のガレージを利用して野菜の委託販売をしています。お客さんの多くは、野菜を買い求めるためだけでなく、やよいさんの明るい人柄に惹かれて、店を訪れているようです。
(山本)「山本さん、いつも元気やなあ。どんなしたらそんな元気になるの」とかって、本当はいっぱい病気抱えてるんやけど、そんなん言わへんから(笑)。ようそんなこと言うてくれたり、それももう本当に神様のおかげで助けていただいてるなと思います。ややこしい体ですけども、まあ、せっかく頂いた命やから、どんだけ生かしてもらうか分からんけど、お役に立たしてもらいたい、人様に喜んでもらいたいっていうその思いですね。
(ナレ)人間が生きていく上で、神様を信じることがいかに力強い支えとなるか、やよいさんはそのことを、身をもって教えてくれています。