てんちのかみさまのいうとおり


●先生のおはなし
「てんちのかみさまのいうとおり」

福岡県
金光教北九州八幡きたきゅうしゅうやはた教会
野中正幸のなかまさゆき 先生


(ナレ)おはようございます。案内役の岩﨑弥生いわさきやよいです。
 新しい命の誕生には、それぞれに物語があるように思います。今日は、福岡県金光教北九州八幡きたきゅうしゅうやはた教会、野中正幸のなかまさゆきさんのお話で、「てんちのかみさまのいうとおり」。

 「どちらにしようかな。てんちのかみさまのいうとおり」
 金光教の教会で生まれ育った、4歳になる私の娘が歌っています。「幼稚園でね、お友達が『てんのかみさまのいうとおり』って歌うから、私は『てんちのかみさまのいうとおり』って歌ったんだよ」。
 金光教には、「天と地の間に人間がいる。天は父、地は母である」「神様のご神体は天地である」という教えがあり、天地全体を神様として仰ぎ称えています。私は金光教の教師として福岡県の教会に奉仕し、家族と共に金光教の教えを大切にしながら生活をしています。娘は教会で生活する中で、自然と「てんちのかみさま」を知り、歌うようになったのでしょう。なんともほほ笑ましく、ここまでの娘の成長を神様にお礼申し上げました。そして、「てんちのかみさまのいうとおり」と私も口にしながら、ふと娘が生まれた時のことを思い出しました。
 4年前の3月、出産予定日の朝、妻に陣痛が始まり、産婦人科へと向かいました。初めての出産で、妻も私も緊張しています。結婚して初めて金光教を知った妻は、手を合わせて神様にお願いしているようでした。
 陣痛は来ているものの、生まれる気配はありません。一日が過ぎ、翌日の午後から陣痛促進剤を投与することになりました。促進剤によって痛みが増すようで、妻は青い顔をして苦しんでいます。3日目を迎え、お医者さまから「午前中頑張ってだめでしたら、夕方、帝王切開手術をします。そうしないと母子共に危険ですから」と言われました。妻も私も、想定していなかった「帝王切開手術」という言葉に驚きました。痛みの中、午前中も気配はなく、夕方、いよいよ手術を受けることになりました。
 私は、懐妊の知らせを受けてからずっと、出産が難産にならず、母子共に健康で、すんなりと生まれるよう神様にお願いし、結婚して金光教を知った妻に、出産を通して、神様からのお働きを感じてほしいと思っていました。母子共に3日間、よく頑張ってくれたと思うと同時に、私の願いが神様に届かなかったと、落胆する気持ちも少なからずあったのです。
 手術の無事を祈りながら、複雑な気持ちで待ちました。約40分後、待合室まで大きな泣き声が響きました。元気な女の子が生まれました。私は、うれしくほっとした反面、手術になったことに引っかかりを感じていました。しかしお医者さまから受けた説明で、その思いが一変しました。
 お腹を切ってみると、テニスボールの一回り小さいくらいの子宮筋腫が見つかったというのです。そのせいで、赤ちゃんが下りてくることができず、手術せずには生まれなかった、とお医者さまが話してくれたのです。私は、驚くと共に、全身の力が抜けてしまいました。神様に願いが届かなかったのではなく、帝王切開でしか生まれてくる方法はなかった。私の願いを超えた、神様の大きなお働きを感じました。
 これまで妊婦健診の時には、お腹の中の赤ちゃんの様子をカメラで写し出してくれました。それだけ技術が発達し、何でも分かるように思ってしまいますが、人間には分からないことや気付かないことがたくさんあるのだと、強く実感させられました。
 手術の後、妻はその時の思いを話してくれました。
「自分のお腹の中がそんなことになっていたなんて思ってもみなかったし、お腹を切ることになるなんて思わなかった。何でも当たり前じゃないし、自分が想定していたことと違うことも起こってくる。きつかったけれど、出産の大変さや命の尊さが一層分かったし、技術や人間の限界もわかった。神様に、ありがとうございますと、全てを感謝しながら、良いように導いてくださいと祈ることが大事だね」
 生まれたばかりの赤ちゃんの寝顔を穏やかに見つめながら、妻はそんなふうに話してくれました。
 私も、自分の考え、価値観で物事を決めつけず、いつでも神様に、「どうぞ教えてください。良いほうを分からせてください。導いてください」と、お願いすることの大事さを学んだのでした。
 そして今、笑顔で「てんちのかみさまのいうとおり」と歌い続ける娘を見ながら、娘がもう少し大きくなったら、この出産の時の話をしようと、先々を楽しみにしています。

(ナレ)いかがでしたか。私も出産の経験がありますが、「3日間の陣痛」、想像しただけで、気が遠くなる思いがします。お母さんも赤ちゃんもよく頑張りましたね。そして、よくぞ生まれてきてくれました。ある意味、子宮筋腫があることを知らずに、不安なく出産まで来たことは、救いだったのかも知れません。
 医療が進歩しても、まだ人間には分からないことがある、そして、気がつかないけれど、大きなお守りがあるということを、ひとつの小さな命に教えられました。
 私も分からないことがあるのだから、せめて素直に「てんちのかみさまのいうとおり」ができるようになりますように。

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