●先生のおはなし
「姿かたちは無くても」
東京都
金光教町田教会
川越基如 先生
(ナレ)おはようございます。案内役の大林誠です。先日、近所で足場の組み立て作業をしていました。若い人たちのパワフルな仕事ぶりを、あっけにとられて見ていたら、現場監督が、「この仕事はきついですからねえ、30歳を越えたらもう体が続かなくなって、ほとんど辞めていきます」と教えてくれました。
今日は東京都町田市にある金光教町田教会の川越基如さんのお話です。川越さんは、金光教教師になる前の15年間、とび職をしてきたとか。それを聞いただけで頭が下がる思いがします。タイトルは「姿かたちは無くても」。
私は現在、金光教の教師をさせていただいていますが、教師になる前はとび職をしていました。私は高所恐怖症で、とてもそのような仕事はできないと思っていましたが、当時、就職活動に苦労しており、親にも心配を掛けたくないので、どんな仕事でもいいからと友人に紹介してもらったのです。
入社当時、ビルの新築現場の足場を組み立てる仕事があり、おっかなびっくり、腰を引きながら奮闘する毎日でした。それからも恐怖心はあるのですが、だんだんと仕事に対する誇りとやりがいが芽生え、一人前のとび職人になりたいと思うようにまでなりました。そこで、尊敬する親方の現場で修行させてもらうことにしました。時に恐怖で逃げ出したくなることもありましたが、そこで技術と経験と自信を得ることができました。
私がとび職の仕事をするようになって6年くらい経ったころ、金光教の信者であった父が金光教の教師を志し、実際に教師となって、その後教会を開設しました。信者であった父の生き様を知っておりましたので、私はそのことに反対することなく、仕事が休みの日には教会のことを手伝うようになりました。それから数年後、母から、「あなたも金光教の教師になってくれないか?」と言われたのです。
70歳を過ぎた父。長男である自分が親の跡を継ぐべきなのか? 私が断れば、父が亡くなった時、今、教会に参拝している信者さんたちはどうなってしまうのか? といって、自分のような者に金光教の教師が務まるのか? いろいろと悩みました。そこで、金光教の勉強のために、教祖の伝記を読んでみました。私は、いつも人のことを思い、神様の御心に沿う生き方をひたすら求め続ける教祖の姿に、なぜか自然と涙があふれ、「この信心は素晴らしい」と心から思え、後は自分次第だと決心し、父の跡を継ぐことにしたのです。
とび職の仕事に就いた当初は腰掛のつもりで、すぐに違う仕事を探す予定でしたが、気がつけば約15年もの間お世話になりました。そこでいろいろなことを教わったのですが、とび職の仕事の姿勢は、「自分のことより人のことを願え」という金光教のみ教えに通じるところがありました。尊敬する親方から、足場一つ作るのでも、自分のやりやすいように作るのではない。ただ自分の仕事をすればいいということではない。その足場を使う人のことを思って、使う人が仕事しやすいように作らせてもらうことが大切なのだと教えられました。また、台数に限りがあり、皆が我先にと使いたがるクレーンを使用する時は、自分は後回しになってでも人に譲ってあげることを心掛けました。そうすることで現場の雰囲気も良くなり、自分にとっても働きやすい良い環境が整っていきました。
そして、とび職の仕事を通して金光教の神様が少し分かったように思います。足場というのは大工さんや鉄筋屋さん、左官屋さんなどたくさんの職種の方たちが作業をするためのもので、自分のための足場ではありません。建物が出来上がれば足場は解体され、跡形も残りません。しかし、足場がないと誰も作業ができず、建物は完成しません。姿かたちは残らなくても、無くてはならない大切なもので、その存在を知っている人は知っています。
神様も目には見えず、姿かたちがありませんから、皆がその存在に気付かなくても、この世に生きとし生けるものたちのためにいつもお働きくださっている、無くてはならない大切な存在なのです。
世の中には、気付かなかったり誤解していることがたくさんあると思います。先入観にとらわれることなく、見えないものを見る目を養い、自分がしたことに誰も気付かなくても、とび職の経験とみ教えから学んだ「自分のことより人のこと」が、いつでも実践できる自分になれるよう、目を閉じ心を落ち着けて探せばきっと出会うことができる神様と共にこれからもお役に立たせていただきたいと願っています。
(ナレ)いかがでしたか。川越さんは、神様のお働きを工事用の足場に例えていますね。足場を用意することの苦労と、その役割の大切さ、そしてまた、評価されることの少なさまでも、身に染みて知っている人ならではの例えだなあと思います。私たちのいのちを支えに支え続けて、恩に着せることを一切なさらない神様のことを、もっともっと分からせてもらいたい。そんな気持ちになりました。