●私の本棚から
「徳を積むということ」

東京都
金光教麻布教会
松本信吉 先生
おはようございます。東京都にあります金光教麻布教会の松本信吉です。
金光教に関する書物の中から、後世に残したいお話を紹介する『私の本棚から』。今日紹介するのは、岡山県にあります金光教早島教会で長年奉仕されてきた玉井光雄先生のお話です。
皆さんは「徳積み」という言葉を知っていますか? 「徳積み」とは、「徳を積むこと」。じゃあ、「徳」って何でしょう。「あの人は徳の高い人だ」、なんて言ったりしますが、どこか気高い雰囲気を醸し出していたり、周りからすてきだと思われている人っていますよねえ。一般的に、良い行いや立派な行いを積み重ねて、「徳」というのは積まれていきます。そして、徳を積んだ人の人生は豊かになるとも言われます。「あの人は運が良いなあ」と思われる人は、単にラッキーな人ではなく、自らが積んだ徳、もしくはご先祖様が積んだ徳によるものだとも考えられています。また、神仏のご加護を得るために「徳」を積む場合もありますが、「神仏のご加護」と言われると、何か特別なことや厳しい修行をしなければ得られないように思ってしまいますよね。そんな事を考えていた時、一冊の本に出会いました。
今朝は、平成9年に編集された玉井光雄著『囲炉裏 ーぬくもりを集めてー 第二集』の中から、『どうしたら徳が積めるか』というところを朗読したいと思います。
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私が、徳、徳と申しますと、徳というのはどうすれば積めるんですかと言われる。むずかしく考えて、特別なことをしないと徳は受けられないと思っていますが、そんなことはない。毎日の生活、朝起きて働いて自分の勤めを果して、ご飯を食べて、夜になったら家族と話をして寝る。そういうような生活を順調に繰り返していくことが、徳を積むということであります。徳を積むために、自分の生活をほったらかして、何か特別なことをしないと徳が積めないと思っている人がありますが、それは大きな間違いです。そうではなくて、徳を積もうと思うたら、今、自分が生活をしている、その生活を本当にありがとうに思うて、自分に出来る勤めを、当たり前のことを一生懸命にしながら、日を立てていく。この繰り返しが、ひとりでに徳になっていくわけです。ですから、特別なことをするのではなく、自分の勤めを大切に、自分の生活をありがとうに送らせて頂くことで、ひとりでに身につくのが徳というものなのです。
もっと詳しく申しますと、人間は二つ働かせなければならないことがあります。一つは心の働きであり、もう一つは体の働きであります。こう言うと、またむずかしく受け取られますが、私どもは毎日、夕方になると、今晩は何のおかずにしようか、と思っているでしょう。この思うということは心の働きです。今晩、何のおかずにしたら皆が喜んでくれるかとか、あるいは息子が風邪を引いているから、何にしたらよいかとか、主人がくたびれているから、これをした方がよいとかいろいろと思う。その思いが心の働きです。そうして、よいことをしっかりと、本気で思っていれば、それがひとりでに神様に向いてお願いに変わる。願いになるんです。そして、その願いによって体が動く。
たとえば、きょうは肉を食べさせようと思ったら、自分で足を運んで肉屋さんに行くでしょう。心が動けば、それが体の働きになるわけです。風邪を引いた息子が、今夜はおいしかったと言って喜んでくれる。そのことが自分の喜びになり、また自分の心に返ってくる。心に返ってきたら、その喜びが元になって、ちょっと気をつけると喜んでくれるんだなと思って、次の日の心の働きを生み出していく。このように人間は心に思うて、思うた通りに体が働いて、その結果が出て、ありがたいなあと喜んだら、その喜びが心にもどってきて、次の心の働きの原動力になる。この繰り返しが人間の生活であり、自分の勤めを果たしていくということです。これが、徳を積むということなんです。
※ラジオ放送用に変更を加えている箇所があります。表記は原典に基づいています。
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いかがでしたか。麻布教会で奉仕している私の母は、現在82才になるんですが、教会に参拝された方、ご縁のあった方のお名前を、一人一人ノートに書いて毎日神様に祈っています。何百人の方のお名前を、毎日、祈りながら、繰り返し繰り返し書く。そうすることで、その方のお子さんやお孫さんがお見えになって新たなご縁をいただいたり、久しぶりに参拝された方が自分の名前を覚えてくれていることに驚いて、喜ばれます。母の心と体が働き、皆に喜んでいただいているのです。
また私は、毎年、町の夜警に参加しています。「火の用心しゃっしゃりやしょう」と声を上げ、拍子木を鳴らします。火災予防を呼び掛け、お年寄りが子どもたちに町の歴史を語るなど、長年受け継がれている催しです。私が参加するようになって30年あまりになりますが、楽しく参加しています。町のためにと、私の心と体が自然に働いているのです。
徳を積むということは、特別な何かをする必要はなく、それぞれの持ち場立場で、取り組む内容は違っても、自分の勤めを大切にし、誰かのことを思い、心と体を働かせ、日常生活に起きてくる全てのものを一つひとつ気持ち良く受けていくことであり、日常生活を送る中で、どなたでもできることなのだと思います。
どうぞ皆さんの一日一日の生活が徳積みになっていきますように、今日も元気な心でまいりましょう。
HAVE A NICE DAY!