●先生のおはなし
「人の身が大事か、わが身が大事か」

兵庫県
金光教桜口教会
嶋田信一 先生
(ナレ)おはようございます。案内役の岩﨑弥生です。今日は、兵庫県・金光教桜口教会、嶋田信一さんのお話で「人の身が大事か、わが身が大事か」です。
『人の身が大事か、わが身が大事か、人もわが身もみな人である』
この言葉は、今に千万無量に残る金光教の教祖・生神金光大神様の教えの一つです。
自分より自分の周りにいる人の助かりを先に願いますか? それともやっぱり自分のことのほうを先に願いますか? そうやって人は順番を決めなければ動けないところもありますが、神様には、そんな順番はなく、みんな一緒に助かり立ち行くことを願っておられるのです。だから、そういう生き方ができるように、みんなで心掛けて取り組んでいきましょうよ、ということを教えてくださっているのです。
今から30年前、私の目の前で、そんな光景が自然に広がった場面がありました。
平成7年1月17日、あの兵庫県南部地震が起こった時、私は用事で静岡にいました。朝早くに「すぐにテレビを点けろ」とひっ迫した電話の知らせに慌てて観てみると、画面から信じられない様子が映し出されていました。私のふるさと神戸が壊滅の状態にありました。私の奉仕している教会がある、JR六甲道駅が崩れ落ちている様子を観た時、私は震えが止まりませんでした。
実は、この前年の春、私たちが奉仕する教会は火事に遭っていました。そのため、教会自体は本建築に向けて、まずはプレハブを建て、私一人でそこに奉仕しており、妻と4人の息子は、妻の実家である大阪の吹田にある教会に住まわせてもらっていました。ですので、家族の無事は確認できており、桜口教会も近所に住んでいた弟と何とか連絡が取れ、「教会の建物に隣の家が倒れ寄り掛かってきているが何とか立っている」との知らせを受けていたので、うちうちの心配というものはありがたいことになかったのです。では、なぜ震えが止まらなかったのか。
それは、火事に遭った時、避難させた子ども達を預かってもらった後、私と妻は燃え盛る炎を見ながら、「なぜこんなことに…。これからどうなるんだろう」という心配はもちろんありました。しかし不思議なことに、その心配より、「神様は、これから一体何を見せてくれるのだろうか」という思いのほうが圧倒的に強かったのです。「そう思うようにしよう」と自分に言い聞かせたのでもなく、自然とそう思えたのです。
その時のことを、テレビを観ながら思い出し、「そうか、あの火事で、私たち家族は助かることになったのかもしれない」と私にはそう思えて、震えたのです。
その日のうちに、家族がいる大阪まで帰ってくることができました。次の日に、自転車で神戸へと向かいました。兵庫県に入り、テレビで観ていた状況が目の前に広がっていく中、私は自転車のペダルを漕ぎながら、「火事によって助けられた私たち。その私に神様はこれから何をせよと言われているのだろうか」。そう何度も胸に問いながら、教会へと向かいました。
その時の教会は、プレハブの前に車4台が止められるスペースがあり、そこに近所の方々が集まっていました。私が帰ってから、徐々に共同生活のような状態になっていき、5日ほど経った頃、私が今できることとして考えていた一つを皆に伝えました。「風呂を作りたい」。そこにいたすべての人が賛同してくれました。
たまたまボランティアに来てくれていた人たちもいて、それならばと早速浴槽やドラム缶を手配してくれ、持ってきてくれたのです。さらにはその話を聞きつけた人たちが自然と集まり、瓦礫の除去、小屋作りや左官仕事を手伝ってくれたのです。皆さんは被災した人たちです。この先それぞれの生活自体どうなるのか全く分からない不安があろうにもかかわらず、ただただ、今同じ状況にいる自分と、自分以外の人たちが少しでも体と心を癒せるようにと、心を一つに動いてくれている。その一人ひとりの姿を見ていると、まさに『人の身が大事か。わが身が大事か。人もわが身もみな人である』との光景そのものでした。「神様は私にこういうことを求められていたのか」と、感動で胸がいっぱいになりました。
3日後無事に完成しました。工夫に工夫を重ねて作った、常にきれいなお湯が使えるお風呂です。一番初めに入った人が、「あー、結構な湯加減です」とのその声に、その場にいる全員の「バンザーイ」が震災後の暗闇の町に響きわたりました。
こんな人間のあり方こそが、災害にあった皆さんだけではなく、平和を望む世界の人々が今一番求めていることなのではないでしょうか。
(ナレ)いかかがでしたか。
30年前の大地震、多くの方が亡くなり、建物が壊れ、人間の無力さを思い知らされました。そんな中で、このような心温まるドラマがあったとは、救われる気持ちになります。人は多くをなくした時にもなお神様から頂いている「誰かのために」という、やさしく相手を思う神心が現れるのですね。その人々の姿こそが、火事に遭った後、神様の願いを問い続けた嶋田さんへの答えだったのかもしれません。「人の身が大事か。わが身が大事か。人もわが身もみな人である」。神様に引き出される人間の力強さも感じる神戸の復興です。